借金を整理する選択肢
債務整理の相談に来る方の中には当然、住宅ローンを返済中の方もいます。
それは別に構わないのですが、中には住宅を購入した時点で既に多額の借金を背負っている方もちらほら見受けられます。
私 「現在のお住まいは?」
相談者 「マンションを買いまして、今は住宅ローンが月7万円です」
私 「そうですか。マンションはいつ購入されましたか?」
相談者 「昨年です」
私 「ということは、すでにその時点では消費者金融等の借金があったわけですね?」
相談者 「はい、そうです」
私 「なぜ、借金がある状態でマンションを?」
相談者 「私も銀行の融資が通らないと思ったんですけど、意外にもOKだったもんで・・・」
すでに借金があるにもかかわらず、マイホームを購入するのは正直、どうかと思います。
最近は、「家賃と同じ返済額で夢のマイホームが買える!」といったような広告も見受けられますので、こういった不動産業者の宣伝の影響もあるのでしょう。
気持ちは良く分かりますが、すでに借金をしてしまっているのであれば、そのような状態で無理して買うのではなく、きちんと借金を完済してから夢のマイホームの購入を検討されるのがよいのではないかと思います。
ところで、借金を整理する手段の一つに任意整理というものがあります。
これは司法書士や弁護士が相手の貸金業者と個別に和解交渉を進めて、残った借金を分割で返済していくというものです。
もちろん、利息制限法を超える金利で借入れをしていたのであれば、まずは引き直し計算をして、正しい残額を算出するところから始まります。
分割回数に関しては36回払い前後が一般的です。
つまり、年数にすると3年です。
ただし、借金の残額が少ない場合は10回未満の回数になったり、一括払いということもありえます。
逆に、借金の残額が多い場合には3年以上になる場合もあります。
上限回数は貸金業者によって異なりますが、おおむね60回のところが多いです。
金額や条件によっては、100回近くの分割になることも稀にありますが、返済期間が8年以上となるので現実的ではありません。
あまりにも長期の分割にすると、実現可能性も危うくなるので、やはり3~5年くらいが妥当と思われます。
あとは、債務者の生活状況等を考慮して、総合的に判断するしかありません。
なお、あまりにも長期の分割になるくらいであれば、借金の元金自体を大幅にカットできる個人再生をした方が個人的には良いと思います。
ただし、個人再生となると裁判所に申し立てをしないといけませんし、一部の債権者を除外することもできませんので、様々な事情からやむなく任意整理を選択せざるを得ないこともあります。
とはいえ、個人再生を阻害する事情がないのであれば、おおむね300万円以上の借金であれば、任意整理ではなく個人再生を選択した方が良い場合も少なくありません。
もし、個人再生での返済も厳しいようであれば、無理に任意整理を選択するよりは、きっぱりと自己破産で再スターを切った方がよいでしょう。
どの手続きを選択するかについては、最終的にはご本人の希望もあるので、必ずしもこちらの見解と一致しないこともありますが、返済できる可能性が極めて低いと思われるような場合には、無理に任意整理をしても結果的には行き詰る可能性が高いのが現実です。
なお、数年前に比べると、任意整理の件数自体は圧倒的に減っているのが現状です。
これは総量規制の導入や過払い金請求の増加によって、国内の多重債務者数が大幅に減少したのが原因といわれています。
とはいえ、任意整理が借金整理の選択肢の一つであることは違いありませんので、まずは任意整理を第一に検討することになります。
千葉近郊であれば当事務所でも対応可能ですので、返済が厳しくなってしまった方はお気軽にご相談ください。
以下は相談例の紹介です。
主婦でうつ病のAさん来所。
Aさんは以前、一度、来所の予約を入れていましたが、何の連絡もなくドタキャンされた経緯あり。
そういったわけで、今回も来所されるかどうか不安でしたが、無事到着。
Aさん 「自己破産をしたいのですが」
私 「そうですか。では、自己破産が妥当かどうかを判断するためにも現在の借入状況を教えて頂けますか?」
Aさん 「A社から80万円・・・(中略)・・・E社から10万円です」
私 「そうすると合計で250万円くらいですね?」
Aさん 「はい」
私 「それぞれどのくらい前から借りていますか?」
Aさん 「A社は5年くらい前・・・(中略)・・・E社は1年くらい前です」
私 「そうですか。古いものでは5年前くらいなので、利息制限法で引き直しをすればおそらく負債は200万円くらいまで減るのではないかと思います」
Aさん 「そうですか・・・」
私 「自己破産が希望ということですが、毎月何万円くらいであれば返済できそうですか?」
Aさん 「・・・う~ん。今が7~8万円は返していますから・・・」
私 「4万円くらいなら返せそうですか?」
Aさん 「それくらいなら旦那の給料から返せると思います」
私 「もし、分割返済で済むのであれば自己破産はしなくて済みますがどうですか?」
Aさん 「だんなはできる限り分割返済を希望していますし、私も分割で返せるならその方がいいです」
私 「では、今すぐに自己破産か任意整理かを決める必要はありませんので、分割返済ができそうであれば任意整理で、ダメであれば自己破産に切り替えることにしましょう」
債務整理の方針は相談を受けた時点で決められるものではありません。
引き直し計算の結果、どのくらい債務が減るかが判明するには通常、1~2か月はかかります。
今回はAさんが本当に毎月4万円を払っていけるかを見極めるためにも、当事務所への報酬の支払いを毎月4万円の分割払いにしました。
Aさんが毎月4万円を入金できれば任意整理で済むかもしれませんが、入金が滞るようだと任意整理より自己破産が妥当という結論になります。
債務整理では受任時点で方針が確定している場合もありますが、今回のように受任から数ヵ月後に方針が決まる場合も珍しくないのです。
いずれにしても、まずは受任して債権者からの請求を止めて、返済に追われる毎日に終止符を打つことが大切です。
次は、一度任意整理をした方が自己破産に移行するケースです。
Aさん 「ご無沙汰しております。以前、任意整理でお世話になりましたAです」
私 「どうされましたか?」
Aさん 「最近の不景気の影響でどうにも返済ができなくなってしまいました・・・今からでも自己破産は可能ですか?」
私 「支払いができないのであれば自己破産もやむを得ないかもしれませんね」
Aさん 「自分の勤めている会社の業績が悪くて給料が減ってしまいました。今の給料では生活するだけで精一杯です」
私 「そうですか・・・今月分の返済はまだされていませんか?」
Aさん 「どうにか返済できないかと思って頑張ったのですが、どうにもならなくて連絡した次第です」
私 「では、さっそく自己破産を前提に手続きを進めていきたいと思いますので近日中にご来所下さい」
Aさん 「わかりました」
最近、このような電話がちらほらあります。
当初は任意整理で分割返済できると思っていたにもかかわらず、今年に入ってこの世界不況。
身近なところでも徐々にその影響が出始めています。
ところで、Aさんのように任意整理をした後でも自己破産というのは可能です。
自己破産は客観的に支払不能に陥っていれば要件は満たします。
できることならこの手の相談は受けたくありませんが、これから増えてくる気がしてなりません。
案の定、後日また別の依頼者Bさんから同じような電話がありました。
Bさん 「現在、そちらに任意整理でお世話になっているBですが」
私 「はい、どうなされました?」
Bさん 「11月分の報酬のお支払が遅れて申し訳ございません。実は10月から派遣元から契約を解除されてしまいまして・・・」
私 「そうなんですか」
Bさん 「今現在はアルバイトをしているのですが、とても返済する余裕はなくて・・・こんな状態ですと任意整理は無理そうなので自己破産に切り替えようと思っているのですが」
私 「そうですね~。近い将来、正社員になれる見込みがないのであれば、Bさんの場合は自己破産をした方がいいかもしれません」
Bさん 「やはり、そうですか・・・いずれにせよ一度、嫁と話をしてすぐに結論を出したいと思います」
私 「了解しました」
Bさんは任意整理予定で来年早々にも各社と和解交渉を始める予定でした。
しかし、11月分の報酬の支払いなかったので、嫌な予感がしたのですが・・・。